貨物自動車運送事業(トラック運送業)における「標準的運賃」について、制度の趣旨・内容・改正の経緯、実務上のポイントまでを体系的に解説します。特殊車両についてもトラックの中の位置づけで説明します。
トラックの標準的運賃とは
標準的運賃とは、貨物自動車運送事業法に基づいて国土交通大臣が告示した「運送事業者が法令を遵守し、持続的に事業を運営するために収受すべき運賃の指標」です。
トラック運送業は荷主に対しての安値の運送関係の受注がドライバーの低賃金や長時間労働、安全管理の欠如を招いていました。これを是正するため、国が「この仕事であれば、これくらいの運賃を受け取らないと、適切な経営や安全確保ができません」という具体的な金額を示したものが標準的運賃です。
貨物自動車運送事業法からの引用です。
附 則 抄
(標準的な運賃)
第一条の三 国土交通大臣は、当分の間、事業用自動車の運転者の労働条件を改善するとともに、一般貨物自動車運送事業の健全な運営を確保し、及びその担う貨物流通の機能の維持向上を図るため、一般貨物自動車運送事業の能率的な経営の下における適正な原価及び適正な利潤を基準として、標準的な運賃を定めることができる。
2 国土交通大臣は、前項の規定による標準的な運賃を定めたときは、遅滞なく、これを告示しなければならない。
3 国土交通大臣は、第一項の規定による標準的な運賃の設定については、運輸審議会に諮らなければならない。

トラックの標準的運賃の概要
標準的運賃は、「運ぶ距離」だけでなく、車両の大きさ、作業時間、燃料価格の変動などを考慮して構成されています。
「距離制運賃」と「時間制運賃」の2種類があって、さらに待機時間料や積込・取卸料といった「料金」が別建てで設定されています。
「距離制運賃」は、車種(2t、4tなど)と走行距離(10kmごと、50kmごとなど)に応じて料金が決まる計算方式で、この距離制運賃に標準的な原価や利益を加味して標準的運賃が算出されます。
「時間制運賃」は、走行距離より時間拘束の長い運送で使われており、到着から終了までの時間で料金が決まる方式で、トラック業界でも運送形態に合わせて使われています。
標準的運賃は、「基準」であって強制力はありませんが、これを大幅に下回る運賃での契約が続く場合、国土交通省による荷主への「働きかけ」や「要請」が行われる可能性があります。
トラックの標準的運賃の目的
目的としては、妥当な運賃を得ることによって、賃上げの原資を確保して、労働者不足や高齢化が深刻な物流現場の労働環境を底上げするドライバーの待遇改善、適正な車両整備や休息時間を確保できるだけの収益を維持する安全輸送の確保、それと料金の中抜きを防ぎ、実際に荷物を運ぶ実運送事業者に適切な対価が届くようにする多重下請構造の是正があります。
トラックの標準的運賃の対象
一般貨物自動車運送事業で貸切輸送(チャーター便)を行う事業者が主な対象です。
荷主企業については、運賃を支払う側の荷主にも、この基準を尊重して、適正なコスト負担を受け入れる社会的責任が求められています。

特殊車両と標準的運賃について
標準的なバン型車両とは異なるコストがかかる車両については、「特殊車両割増」が設定されています。
- 標準的運賃の「特殊車両割増」は次のとおりです。
- 冷蔵・冷凍車は、2割増で燃費や設備維持費を考慮したためです。
- ダンプ車・セメント車は、2割増となり荷台の特殊構造とメンテナンスの考慮によります。
- タンク車(石油)は3割増となり、危険物・毒劇物等の取り扱いコストを加味しています。
- 海上コンテナ車両は、4割増となって特殊な運行形態とシャーシ管理のために割り増しになります。
車種や運送品目により、個別の原価計算に基づいて、さらに加算・追加されることもあります。
改正内容(履歴)
標準的運賃制度は、現場の実態に合わせてすすんでいます。
2020年4月(創設)
ここで初めて告示されました。運送業界の輸送能力の不足や物流の停滞、ドライバーの収入減、ドライバー不足の深刻化などの「2024年問題」に対応するための土台づくりがなされました。
2024年3月(大規模改正)
運賃水準を平均約8%引き上げして、燃料サーチャージの基準価格を120円(以前は100円)に変更。「待機時間料」と「荷役料(積込・取卸)」の明確な分離をおこないました。下請手数料(10%以内)の規定を新設しました。
標準的運賃の経緯(推移)
過去の推移では、「値上げ」ではなく「コストの透明化」をすすめています。
2020~2023年では、制度の認知普及を目指して、「参考値」としての広告であったが、2024~2025年では、働き方改革関連法が適用開始されて、標準的運賃をベースとした契約更新が業界のスタンダードになりつつあります。
2024年の改正によって、荷役作業などの「運ぶ以外のサービス」が別料金として定着し始めました。
標準的運賃計算ツール
運送事業者や荷主が、改正後の運賃を簡単にシミュレーションできるように公的機関からツールが提供されています。
全日本トラック協会「標準的な運賃計算シミュレータ」
距離制運賃、時間制運賃について、「地域」、「車種」、「距離」、「時間(時間制の場合)」を入力すると簡単に「標準的な運賃」が計算できます。WEB版、アプリ版を提供しています。
上記のURLは次のとおりです。
https://jta.or.jp/member/kaisei_jigyoho/hyoujun_app.html
国土交通省・各運輸局のExcelシート
国土交通省が提供する標準運賃のExcelシートは、燃料サーチャージ計算用や、簡易計算シミュレーター(公示運賃シート)などがあって、運輸支局への運賃・料金設定(変更)届出書 の作成や、運賃の算定・交渉 に活用できます。
標準的な運賃の告示に伴って、令和6年(2024年)6月以降は燃料サーチャージ(軽油価格連動型)の計算シートが重要となっており、これを使って算出した運賃表を運輸支局へ提出します。
2026年のトラックの運賃
2025年末、物流業界は「標準的運賃」からさらに踏み込んだ「トラック新法」に基づく「適正原価」の時代に入ろうとしています。
2026年には、国が示す「適正原価」を大きく下回る取引が法律で厳格に禁止される見通しです。今後は、標準的運賃が単なる「目安」ではなく、「これを下回る取引は法令違反(行政指導・処分の対象)」という法的拘束力を持つフェーズへ移行することが予測されます。


