特車ゴールド制度は、ETC2.0の走行データを活用することで特殊車両通行許可申請の審査を迅速化する制度です。
メリットとしては通行実績による審査簡略化、申請の負担や審査期間が大幅に軽減されて、運送事業者にとってメリットの大きい制度になっています。
特殊車両通行許可とは、法律で定められた基準を超える大型車両(重量・幅・高さ・長さ)が公道を走行するために必要な許可で、従来は審査に時間がかかることが問題でしたが、ETC2.0車載器による走行履歴データを活用して審査を簡素化する制度が「特車ゴールド制度」です。
通行実績のある道路については、安全性が確認されているとして、審査を簡素化できるため、許可取得のスピードが大幅に向上するのが大きなメリットです。それでは詳しく解説します。
特殊車両通行許可とは
参考サイト 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/road/tokusya/
特殊車両通行許可とは、道路法(第47条の2)に基づき、次のような「制限値超過車両」が公道を通行する場合に必要な許可制度です。
「道路法第47条の2からの引用」
第四十七条
道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路との関係において必要とされる車両(人が乗車し、又は貨物が積載されている場合にあつてはその状態におけるものをいい、他の車両を牽けん引している場合にあつては当該牽けん引されている車両を含む。第四十七条の五第三号及び第四十七条の六第一項第一号を除き、以下この節及び第八章において同じ。)の幅、重量、高さ、長さ及び最小回転半径の最高限度は、政令で定める。
2 車両でその幅、重量、高さ、長さ又は最小回転半径が前項の政令で定める最高限度をこえるものは、道路を通行させてはならない。
制限値の例(道路法施行令)
- 特殊車両通行許可の制限値の例としては次のものがあります。
- 重量:総重量 20t(一般道)・25t(高速)など
- 幅:2.5m超
- 高さ:3.8m超
- 長さ:12m超(セミトレーラは16.5m 等)
- 最小回転半径:12m超
国土交通省の資料からの引用の図です。

これらを超える車両がそのまま走ると、道路や橋梁に重大な損傷を与えるため、事前に安全性を審査する制度です。
特殊車両が公道(特に高速道路や国道)を走行するには、道路管理者(国土交通省など)から事前に「特殊車両通行許可」を得る必要があります。この許可がないまま特殊車両が走行することは違法であり、道路損傷のリスクや事故の危険性を高めます。
この許可を取得するためには、車両の諸元や通行経路などを申請し、審査を受ける必要があり、時間と手間がかかるのが課題でした。

ETC2.0とは
ETC2.0は、高度道路交通システム(ITS)を利用した次世代型ETCで、従来の料金決済に加え、位置情報・経路情報を活用できるのが特徴です。
特殊車両通行許可の分野ではこの 走行履歴データ が重要になります。
ETC2.0の特徴
ETC2.0は、これまでのETCと比較して、大量の情報の送受信が可能となり、高速道路のICの出入り情報だけでなく、経路情報の把握が可能となるなど、格段と進化した機能があり、道路利用者はもちろん、道路政策に様々なメリットをもたらし、ITS推進に大きく寄与するシステムです。
また、ETC2.0では、路側機と自動車に搭載された車載器との双方向通信により、ドライバーへの情報提供サービスととともにプローブ情報の収集が可能となります。
ETC2.0プローブ情報とは、ETC2.0対応の車載器を搭載した車両が、路側機(ITSスポット)の下を通過する際に自動的に収集される走行データです。具体的には、車両の位置、速度、急ブレーキ、急ハンドルなどの「走行履歴」と「挙動履歴」が含まれます。このデータは、渋滞の分析や道路交通管理、安全対策などに活用されます。
ETC2.0の特徴は次のとおりです。
広範囲の交通情報提供、渋滞情報や事故情報、迂回情報などをリアルタイムで提供します。危険な場所に近づくと音声で知らせるなど、安全運転をサポートし支援します。
圏央道など、一部区間ではETC2.0限定の割引が適用される割引などがあります。また、特車ゴールド制度の適用に不可欠な、車両の運行実績データ(プローブデータ)を活用する機能など関連サービスがあります。
参考:国土交通省「ETC2.0の概要」
https://www.mlit.go.jp/road/content/001346510.pdf

特車ゴールド制度の概要
特車ゴールド制度は、ETC2.0車載器を装着した特定の特殊車両を対象に、特殊車両通行許可の更新手続きや新規申請手続きを大幅に簡素化する制度です。正式には「特殊車両通行許可簡素化制度」と呼ばれています。
この制度を利用することで、申請者は通常数週間かかる審査期間を短縮でき、特に「過去の通行実績がある道路」を申請する場合の手続きが簡単になります。
- 特車ゴールド制度の目的は次のとおりです。
- 特殊車両を扱う事業者の時間とコストを削減する申請者の負担軽減。
- 物流の効率化、許可手続きの迅速化によって円滑な輸送を促進する。
- ETC2.0のデータ活用により、道路管理者の審査を効率化する。
特車ゴールド制度の要件
特車ゴールド制度を利用するには、次の要件をすべて満たす必要があります。
ETC2.0車載器を搭載していること
車載器管理番号が登録されている必要があります。
過去の通行許可の遵守
許可条件違反がないこと
行政処分歴がないこと
違反歴があるとゴールド認定されません。
申請する車両が「通行実績」を持つこと
ETC2.0で収集した走行履歴が、申請ルートに含まれている必要があります。
安全運行が確認されること
過去の事故・重大違反が多数ある場合は、ゴールド制度の対象外となります。
特車ゴールドのメリット
特車ゴールド制度を利用すると、事業者には次のようなメリットがあります。
審査期間が大幅短縮
これが最も大きなメリットです。通常の特殊車両通行許可は1~2か月かかることもありますが、ゴールド制度では、通行実績がある区間は審査簡略化のため、許可までの時間が大幅に短縮されるとされています。
申請書作成が簡単になる
通行実績をそのままルートとして扱えるため、架道橋等の照会や経路確認作業が軽減されます。
運行管理の効率化
ETC2.0により、車両の走行データを活用できて、運行管理の精度アップにもつながります。
事業者の社会的評価が向上
許可の遵守や法令遵守が求められる制度のために、コンプライアンスの高い事業者である証明にもなり、荷主からの信頼性向上につながります。
特車ゴールドの更新
特車ゴールド制度は認定されたとしても有効期限があります。
基本的な更新の流れ
- 特車ゴールド制度の更新の流れは次のとおりです。
- 有効期間内に更新申請します。
- ETC2.0の走行データおよび遵法状況を再確認します。
- 要件を満たせば継続認定されます。
更新時の注意点
期間中に違反があると、更新不可となることもあります。車両の車載器番号の変更などは申請が必要ですし、実績データが不足する場合、ゴールド扱いにならないことがあるので注意が必要です。
特車ゴールド制度の注意事項
制度を利用するには、いくつかの重要な注意点があります。
すべてのルートで簡略化されるわけではない
通行実績のない区間は通常の審査となり、一部のみ簡略化されるケースもあります。簡素化の恩恵を受けられるのは、主に過去に通行実績のある道路や、特定の車両区分に限られます。全く新しい経路を申請する場合は、通常通りの審査期間がかかることがあります。
ETC2.0のデータは「利用車両」に紐付く
車両の入れ替えをした場合に、古い車両の実績は新車に引き継げません。特殊な構造を持つ車両や、一般制限値を大幅に超える重さや寸法の車両は、この制度の簡素化の対象外となるため、従来通りの厳格な審査が必要です。
ETC2.0のセットアップが必要
ETC2.0の車載器を装着するだけでなく、特殊車両としての正確な情報(特車情報)を車載器にセットアップすることが義務付けられています。情報が誤っていると、制度を利用できません。
違反があると認定取消
道路構造物損傷や許可条件違反(幅・重量の超過)などがあると資格が喪失します。
都道府県や市町村道路は対応状況が異なる
自治体によって運用が異なることがあるため、許可申請先の対応を事前に確認する必要があります。
特車ゴールドはあくまでも「申請簡易化」であり、走行が自由になるわけではない
許可不要になる制度ではなく、あくまで 許可審査が簡略化されるだけです。制度は手続きを簡素化するものであり、道路交通法や車両制限令などの法令を遵守する義務は変わりません。許可された経路や条件を逸脱して通行することは、重大な違反行為となります。


