ラフタークレーンは、移動性能と吊上げ性能を両立した万能型クレーンとして、建設現場から港湾、インフラ整備まで幅広く利用されています。最新の法令や仕様などに基づいて詳しく解説します。
ラフタークレーンとは
ラフタークレーン(正式名称:ラフテレーンクレーン、英語:Rough Terrain Crane)は、悪路走行(ラフテレーン=rough terrain)を前提とした走行とクレーン操作が1つの運転席で行える自走式のクレーンです。
建設現場や資材置き場などの未舗装地でも高い走破性を発揮して1台で走行・旋回・吊り上げ作業が可能な多機能クレーンとして広く普及しています。大型特殊自動車に分類されており、タイヤで(高速道以外の)公道を自走できるのでトレーラーに積載する手間が省けます。
ラフタークレーンの特徴は、走行とクレーン操作を一つの運転席で行うことにあります。また、基本的に4輪駆動・4輪操舵(四輪駆動・四輪ステアリング)が採用されており、狭い現場や悪路での高い機動性と小回りの良さを実現しています。
運転席と操作席が一体構造になっており、車体が比較的コンパクトなため、都市部の狭い現場でも利用できます。
1970年に初めてタダノから日本のメーカー初の15トン吊りラフテレーンTRー150が発表されました。

ラフタークレーンの用途
ラフタークレーンはその汎用性から、さまざまな分野で使用されています。特に25~50トンクラスの中型ラフターは、都市土木・建築現場での常用クレーンとして定番となっています。
建設現場
建築資材の揚重、鉄骨の組み立てなどですが、建築資材、鉄骨、コンクリート部材などの吊り上げ。住宅建築から大型構造物まで対応しています。
プラント・工場設備工事
機械設備の搬入・据付、メンテナンス作業など。高精度な位置決めが求められる現場に最適になっています。
橋梁・道路・インフラ工事
橋桁や大型プレキャスト部材の架設、道路付帯設備の設置などで使用されています。
狭隘地・市街地
小回りが利くため、市街地の住宅密集地や比較的狭い道路での作業に適しています。
不整地
舗装されていない柔らかい地面や勾配のある場所での作業できます。
港湾・物流業務
コンテナ、重量貨物の積み下ろし、船舶補修工事などでの使用例もあります。
解体・災害対応作業
倒壊建物の撤去、重機・資材の移動など、緊急時の復旧活動にも利用可能です。

ラフタークレーンの種類
ラフタークレーンは、主に吊上げ能力(定格総荷重)やブーム構造によって分類されます。
小型(10~25トン級)
建設現場の補助作業や設備搬入などに使用され、取り回しが良く短距離移動に適します。
中型(25~50トン級)
一般的な建築工事や橋梁工事などで最も多く使用されるクラスです。
大型(60トン以上)
大規模プラントや高層ビル建設などの重量物吊りに対応します。アウトリガー(支持脚)を展開して高安定で作業が可能になっているものが多い。また、近年では環境対応型(ハイブリッド・電動式)ラフターも登場しています。
ラフタークレーンの特徴
- ラフタークレーンには次のような特徴があります。
- 4輪駆動や4輪操舵による高い走破性があり、不整地や狭い場所での走行性・機動性に優れる。
- トラッククレーンのような組立て作業が不要で、現場に到着後すぐに作業開始できる
- 小回り性能が高く、狭小地でも旋回可能
- ブーム(伸縮式アーム)を装備し、高所・遠距離への吊り作業ができる
- アウトリガーにより安定した作業姿勢を確保
- 1台で移動と吊り上げ作業ができる
- 一般的に最高時速50km/h程度に規制されており、高速道路走行はできない
これらの特徴から、移動式クレーンの中でも最も汎用性が高いと評価されています。
ラフタークレーンの機能
主な機能は次のとおりです。
伸縮ブーム機構
複数の伸縮部を油圧で制御し、ブーム長を自在に変更可能。荷物を吊り上げるための主要な構造物で、油圧で角度を変えたり(起伏)、長さを変えたり(伸縮)できます。
ジブ装着機能
先端にジブ(補助ブーム)を取り付けており、高所作業を拡張します。メインの伸縮式アームである「ブーム」の先端に、さらに補助的なアーム(ジブ)を取り付けることによって、より高い場所や、ブームだけでは届きにくい狭い場所での吊り上げ作業を可能にする機能です。
アウトリガー制御
車体の安定性を確保するために、作業時に張り出す支持装置です。地盤状況に応じて水平出しを自動で行うシステムになります。
モーメントリミッター(過負荷防止装置)
吊り上げ荷重、作業半径、ブームの角度などを常時監視して定格荷重を超えそうになると警報を発したり、自動的に作業を停止させたりする安全装置です。作業半径と吊り荷の重さからクレーンに働く「モーメント(力)」を計算し、許容値を超えると警報を発したり、作動を制限したりします。これにより、クレーンの転倒事故を未然に防ぎ、安全な作業を確保します。
4輪操舵機能
前輪と後輪を別々に、あるいは同方向に操舵することで、カニ歩き走行(斜行)や小回り走行を可能にし、現場内での移動を容易にします。
過負荷防止装置(AML)
定格総荷重表を超える過負荷によるクレーンの転倒や破損などの事故を未然に防止する安全装置です。AMLは、危険度を表す、モーメント負荷率と言うものを計算して表示します。この負荷率が100%以上になると、ブザーなどによって警告します。
走行・旋回の一体操作
クレーン操作室からすべての操作を行える一体構造となっています。
ラフタークレーンの性能
ラフタークレーンの性能は、主に吊り上げ能力、作業半径、ブームの長さで評価されます。
最大吊り上げ荷重はクレーンが安全に吊り上げられる最大の重さで評価されて最大作業半径はブームを伸ばした時のフックが届く最も遠い距離、最大揚程はブームを伸ばした時に、フックが届く最も高い高さで評価されます。
これらの性能は、現場の規模や作業内容に応じて最適な機種を選ぶ際の重要な指標となります。
なお、ほとんどのメーカーは、最高速度が50km/h(カタログ公表では49km/h)までしか出せないようにしています。
25トン以上のラフタークレーン
25トン以上のクラスは、建設・プラント・港湾工事などでの主力機種です。代表的なモデルとしては、TADANO「GR-250N」「GR-350N」シリーズなどがあり、最大で70トン超級のものもあります。
このクラスでは、走行中の重量や軸重が大きく、道路法上の特殊車両に該当するため、通行時には特殊車両通行許可が必要になります。
20トンを超えるラフタークレーンは、車両の総重量や軸重が一般制限値を超えることが多く、公道を走行する場合は「特殊車両通行許可」の取得が必要となることが多いです。特に25t以上の機種では、この許可申請は必須となることが多くなります。
高い場所や遠い場所への資材の揚重が可能となり、大規模な鉄骨建て工事や、プラント工事などにも使用されます。25トン以上の大型機になると、アウトリガー展開時の安定性と吊上げ性能が格段に向上します。
ラフタークレーンの法律での定義
ラフタークレーンは法的には以下のように分類されます。
労働安全衛生法(クレーン等安全規則)上では「移動式クレーン」に該当しており、道路運送車両法上では「特殊用途自動車(作業用自動車)」として登録します。
道路法施行令第4条に基づく「特殊車両」として、通行許可が必要な場合があります。
また、吊上げ荷重が3トン以上のものは、労働安全衛生法第61条により「移動式クレーン運転士免許」が必要です。ラフタークレーンは「移動式クレーン」の一種として定義され、クレーン操作には「移動式クレーン運転士免許」などの資格が必要です。
ラフタークレーンのメーカー
国内の主要メーカーは以下のとおりです。
タダノ(TADANO)
GRシリーズ 国内シェアトップ。信頼性と耐久性に優れる。4.9t吊り~100t吊りまでラインナップ。海外向けには145t吊りクラスがあります。
タダノ 製品(ラフテレーンクレーン)
https://www.tadano.co.jp/products/rc/index.html
加藤製作所(KATO)
SLシリーズ、SRシリーズ 高精度の制御技術と安定性。4.9t吊り~80t吊りまでラインナップ。「ラフター」の愛称で知られています。
加藤製作所(ラフテレーンクレーン)
https://www.kato-works.co.jp/products/roughter/sr250hv_ek.html
コベルコ建機(KOBELCO)
RKシリーズ 油圧制御の滑らかさで定評があります。4.9t吊り~70t吊りまでラインナップになっています。
コベルコ建機 製品(ラフテレーンクレーン)
https://www.kobelco-kenki.co.jp/products/wheel_cranes/
ラフタークレーンの国内保有台数
国土交通省の統計(建設機械動態調査)や業界資料によれば、国内のラフタークレーン保有台数は約3万台前後と推計されています。
2013年の時点でタダノ、加藤製作所、コベルコクレーン、小松製作所の4社の集計値として、日本国内のラフテレーンクレーン保有台数は約31,800台(車検登録のクレーンの合計台数)となっています。
特に25~50トン級の中型クラスが最も多く、建設業・プラント業・運送業(重量物取扱)などで活用されています。
主要保有者は、クレーンリース業者、たとえば、タダノリース、極東開発などや建設会社の自社保有です。
ラフタークレーンの免許・許可
ラフタークレーンの運転・操作に必要な資格は、用途によって異なります。現場内の作業では労働安全衛生法上の免許、公道走行では道路交通法上の免許が必要となります。
公道の走行には道路管理者の特殊車両通行許可が必要となります。法定最低速度が定められている高速自動車国道及び一部の自動車専用道路では、最低速度を下回るため走行できません。
一部の大型車種については前後に誘導車を付けて、夜間しか走行できない車両もあります。なお、ほとんどの車両は1人乗りですが、運転席後部に座席を設けた2人乗りの車両もあります。
吊上げ荷重3トン以上の操作
移動式クレーン運転士免許 労働安全衛生法第61条(下記は引用です)
労働安全衛生法 (就業制限) 第61条
事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の当該業務に係る免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う当該業務に係る技能講習を修了した者その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない。
吊上げ荷重1トン以上3トン未満
小型移動式クレーン運転技能講習修了
公道走行
大型特殊自動車免許(第一種または第二種) 道路交通法
特殊車両通行
特殊車両通行許可 道路法第47条の2(下記は引用です)
(限度超過車両の通行の許可等)
第四十七条の二 道路管理者は、車両の構造又は車両に積載する貨物が特殊であるためやむを得ないと認めるときは、前条第二項の規定又は同条第三項の規定による禁止若しくは制限にかかわらず、当該車両を通行させようとする者の申請に基づいて、通行経路、通行時間等について、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため必要な条件を付して、同条第一項の政令で定める最高限度又は同条第三項に規定する限度を超える車両(以下「限度超過車両」という。)の通行を許可することができる。



