2026年(令和8年)9月1日、改正道路交通法施行令が施行され、中央線や中央分離帯のない「生活道路」を走行する自動車の法定速度が、これまでの時速60キロから時速30キロへと大幅に引き下げられます。
全国の一般道路のうちおよそ7割が対象になるとみられており、住宅街や商店街を日常的に走行するトラック・配送車両にとっては、運行計画やルート設計の見直しが必要になります。
改正の背景と法令の内容、罰則、運送業者への具体的な影響、特殊車両通行許可(特車許可)や貨物自動車運送事業との関係、そして事業者が今から取り組むべき対策を、警察庁・国土交通省など公的機関の公表情報に基づいて整理します。
改正の概要
施行日と根拠法令
今回の改正は、道路交通法施行令第11条の改正によるものです。令和6年(2024年)7月に改正政令が公布され、令和8年(2026年)9月1日に施行されます。
道路交通法施行令からの引用です。
(最高速度)
第十一条 法第二十二条第一項の政令で定める最高速度(以下この条、次条及び第二十七条において「最高速度」という。)のうち、自動車及び原動機付自転車が高速自動車国道の本線車道(第二十七条の二に規定する本線車道を除く。次条第三項及び第二十七条において同じ。)並びにこれに接する加速車線及び減速車線以外の道路を通行する場合の最高速度は、自動車にあつては六十キロメートル毎時、原動機付自転車にあつては三十キロメートル毎時とする。
改正後の道路交通法施行令第11条では、一般道路(高速自動車国道の本線車道等を除く道路)を通行する場合の自動車の最高速度について、次のように区分されます。
時速60キロメートルのまま据え置かれる道路
・高速自動車国道のうち本線車道並びにこれに接する加速車線・減速車線以外の部分
自動車専用道路
・道路標識等により中央線または車両通行帯が設けられている一般道路
・道路の構造上、または柵その他の工作物により、通行が往復の方向別に分離されている一般道路
時速30キロメートルに引き下げられる道路
上記に該当しない一般道路(生活道路)
まとめ
これまで「標識がなければ一律60km/h」だった一般道路のルールが、道路の構造(中央線・分離帯の有無)によって法定速度そのものが変わるという、大きな制度転換になります。
改正の背景
警察庁や国土交通省の統計では、生活道路(車道幅員おおむね5.5メートル未満の道路)における死傷者のうち、歩行者・自転車利用者が占める割合が高い傾向が指摘されています。
従来の法定速度60km/hは、もともと自動車専用道路や幹線道路を想定して定められた基準であり、住宅街の狭い道路の実態にそぐわないという課題がありました。
歩行者と自動車が衝突した場合、速度が時速30キロを超えると致死率が急激に上昇するというデータも、引き下げの根拠とされています。
生活道路の考え方
「生活道路」という言葉は、道路交通法上の明確な定義ではありません。警視庁は「主に地域住民の日常生活に利用されるような道路」と説明しています。
ポイントは、中央線・車両通行帯がないこと、中央分離帯等の工作物により対面通行が分離されていないことです。
この2つを満たす一般道路が、原則として法定速度30km/hの対象になります。
したがって、中央線や標識・標示がある道路は、これまでどおり60km/hのままであり、全国一律で生活道路が30km/hになるわけではありません。
標識がある道路は「指定速度」が優先
道路標識・道路標示で最高速度が指定されている道路では、法定速度ではなく、その指定された速度が最高速度になります。
法定速度は60km/hの道路でも、標識で「30」と指定されていれば最高速度は30km/hです。法定速度が30km/hに変わる道路でも、標識で「40」と指定されていれば最高速度は40km/hになります。
標識のある道路であれば、改正の影響を受けません。影響が生じるのは、これまで速度標識がなく「暗黙の60km/h」で走行できていた、中央線のない生活道路です。
なお、けん引車については、けん引される車両の重量が2,000kg以下で、けん引車の重量がその3倍以上ある場合に限り、時速40km/hまでの指定が可能とされる特例が設けられる見込みです。
罰則・行政処分点数
法定速度違反は、通常の速度超過と同様に取り締まりの対象です。一般道路で30km/h以上の速度超過は、いわゆる「一発免停」の対象となる重大な速度超過にあたり、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金が科されることがあります。
反則金・違反点数についても、超過速度に応じた既存の基準(一般道路:20km/h未満1点、20~25km/h未満2点、25~30km/h未満3点、30~50km/h未満6点、50km/h以上12点)が適用されます。
生活道路ではこれまで「60km/hまでは合法」だった区間が「30km/hを超えた時点で違反」に変わりますので、これまでどおりの運転だと違反になる可能性があります。

運送業者・トラック輸送への影響
生活道路は、住宅街や商店街への配送、狭小地への横持ち輸送などで日常的に利用される区間です。今回の改正は、運送業者・トラック輸送への影響も大きいと思います。
運行計画・所要時間の見直し
これまで生活道路区間を60km/hの前提で組んでいた配送ルートやドライバーの走行計画は、30km/hを前提に再設計する必要があります。
特に、集配拠点から住宅街までの区間や、狭小な生活道路を経由する迂回ルートでは、区間ごとの所要時間が実質的に増加します。カーナビゲーションや配車・動態管理システムの速度設定・到着予測ロジックも、法定速度の変更にあわせた更新が必要になる可能性があります。
「物流の2024年問題」との関係
トラックドライバーの時間外労働の上限規制や改善基準告示による拘束時間・運転時間の管理が強化されるなか、生活道路区間での所要時間増加は、運行スケジュール全体の余裕をさらに圧迫する要因になります。運行管理者は、法定速度の変更を前提とした運行計画の作成・点呼時の指導・過労運転防止のための乗務割の見直しを行う必要があります。
安全運転管理・教育への影響
改正後は、標識がない生活道路でも「30km/hを超えれば違反」となるため、ドライバー個々の感覚に依存した速度管理では対応しきれません。安全運転管理者・運行管理者による教育や周知の徹底が重要です。
- 安全運転管理・周知・教育の内容は次のとおりです。
- 生活道路の判別基準(中央線・分離帯の有無)の周知
- 点呼時における法定速度改正の注意喚起
- ドライブレコーダー・テレマティクスによる速度実態の把握
- 違反発生時の是正指導フロー整備

違反の蓄積が事業運営に与えるリスク
速度違反によりドライバー個人の免許の点数が累積すれば、行政処分(免許停止等)によって乗務可能な人員が減少して、配送体制に影響します。
また、事業用自動車の安全性に関する評価(Gマーク認定等の安全性評価事業)や、貨物自動車運送事業法に基づく行政処分の判断においても、法令違反の状況は評価対象となり得るために、日頃からの法令遵守の徹底が、事業の信頼性維持に大きな影響をあたえます。
Gマークとは、国(国土交通省)が推進し、公益社団法人全日本トラック協会が認定する安全性優良事業所のシンボルマークです。安全性に対する積極的な取り組みや法令の遵守状況が評価された、安全・安心な運送事業所の証しとなります。
特殊車両通行許可(特車許可)との関係
特車許可制度は「速度」ではなく「大きさ・重さ」の制度
特殊車両通行許可(特車許可)は、道路法に基づいて、車両の幅・高さ・長さ・重量などが一般的制限値(幅2.5m、高さ3.8m、総重量20t等)を超える車両が道路を通行する際に、道路管理者の許可を受ける制度です。
今回の道路交通法施行令改正による法定速度の引き下げは、この特車許可の審査基準(車両諸元・道路構造との適合性)そのものを直接変更するものではありません。
ルート選定への影響
ただし、特車許可の申請にあたって通行経路を選定する場合には、生活道路について、もともと狭小な一般道路を経由するルートは、車両の大型化・重量化に伴う道路構造上の制約(橋梁の耐荷重、幅員、曲線部など)から、幹線道路・指定道路を優先する設計が基本とされていますが、注意が必要になります。
今回の法定速度引き下げにより、生活道路区間での通行時間コストがさらに増すことから、特車申請時のルート選定においても、生活道路区間をできるだけ回避して、指定道路(重さ指定道路・高さ指定道路)を活用したネットワークを優先する重要性が一段と高まります。
特車許可の通行条件(徐行・誘導車の配置等)を遵守しつつ、生活道路区間の法定速度改正を踏まえた運行時間の再計算を行うことが望まれます。
- 事業者の対策の対策は次のとおりです。
- 配送エリア内の生活道路(中央線・分離帯のない道路)を洗い出し、標識設置状況を確認する
- 配車・動態管理システム、カーナビの速度前提を見直し、所要時間の再計算を行う
- 運行管理者による乗務割・運行計画の見直しと、改善基準告示との整合確認
- 点呼・安全会議での改正内容の周知、ドライバー教育の実施
- ドライブレコーダー等による走行実態のモニタリングと是正指導体制の整備
- 特車申請ルートの再点検(生活道路区間の有無、指定道路の活用可否)
- 施行日(2026年9月1日)までのスケジュール管理と社内周知資料の準備
まとめ
2026年9月1日施行の改正道路交通法施行令により、中央線や中央分離帯のない生活道路の法定速度は、原則として時速60キロから時速30キロへ引き下げられます。
標識のある道路や中央線のある道路は対象外ですが、これまで暗黙の60km/hで走行できていた住宅街・商店街の道路の多くが対象となるために、運送業者への影響は小さくありません。
特殊車両通行許可制度自体は速度規制と直接連動するものではありませんが、ルート設計・運行計画の両面で、法定速度改正を織り込んだ見直しが必要です。施行日までに社内の周知・教育体制を整え、安全運転と法令遵守を両立させる準備をすすめます。
参考・出典
警察庁「生活道路における自動車の法定速度が引き下げられます!!」
警視庁「生活道路における法定速度について」
埼玉県警察「道路交通法施行令の一部改正について(令和8年9月1日施行)」
大分県「生活道路における法定速度の引き下げについて」
政府広報オンライン「常識が変わる!生活道路は法定速度30km/hへ」
国土交通省「特殊車両通行制度について」
国土交通省 関東地方整備局「特殊車両通行許可制度について」




